庚申の話
庚申は、十干十二支のひとつで、カノエサルとも読む。十干は、甲乙丙丁戊巳庚申壬葵。十二支は、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥である。それぞれの十と十二の組み合わせで、10×12の最小公倍数が60、即ち同じ十干と十二支の組み合わせは六十年に一回しか廻って来ない。今年だったら乙(キノト)と酉(トリ)で、次の乙酉の年には、六十年を要するわけである。六十歳が還暦 と言われる所以である。月に置き換えると2ヶ月に一回廻ってくる。
さて、義太夫には「庚申」と言う詞がよく出てくる。近松の「心中宵庚申」や、「絵本太功記」の妙心寺の段、光秀の謀反に腹を立てていた母皐月の詞に
“イヤのう四方天、何事も見ざる、聞かざる、言わざるに、話があらば嫁ン女、庚申待ちにゆるりと聞こう”
と奥へ入る。
また「楠昔噺 三段目の口、どんぶりこの段」にも、爺さんと婆さんが喧嘩で
“そんなら互いに言わざる、聞かざる”
“オオいっそ、それもまし、庚申待ちにゆるりと話そ・・猿が守する洗い物”
これらの義太夫はどちらも、猿の縁で庚申を引き出している。今では寅さんですっかり有名になった柴又の帝釈天は、守護神が猿、二ヶ月に一度の庚申の日は境内は参詣客で賑わう。
その庚申の日は、庚申待ちといって、夜寝てはいけないとされている。寝るとその隙に、三尸(サンシ)という体内の虫がはいでて、その人の悪事を天帝に告げると言われている。その夜は当然男女の行為も慎み、夜を徹して語り明かす風習であると、豊沢猿蔵師が教えてくれた。その後の調べでは、他に「庚申甲子(カツシ)」と言って、甲子(キノエネ)も同様に考えて房事を忌むとされている。
<弥乃太夫>
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