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金曜日, 8月 19, 2005

四万六千日と雷除け

毎年七月九、十日は浅草観音の四万六千日で、善男善女のお詣りで大層な賑わいを見せる。何しろこの日にお詣りをすれば、観音菩薩の御利益を四万六千日間受けることが出来るというのだ。電卓で計算したら126年と10日。私は生まれてこの方、毎年お詣りしているので大変な数字になる。
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当日は、風神雷神が祀られた雷門をくぐり、仲見世をまっすぐに観音堂に向かうと、境内ところ狭しとホオズキの市が立並び、本堂では災難除けとして雷除けのお札が売られる。雷は昔から、「地震、雷、火事、親父」の怖い物の代表である。かみなりは神鳴りで、神の怒りに触れるから怖いとされているのだ。
しかし雷神はどこかユーモラスで、憎めないところがある。それは、あの想像画から来ているのかも知れない。虎の皮の褌をはき、角を生やし、太鼓を背負っている。そして人間のへそが好きだ。
義太夫節に「かみなり」と言う曲節がある、かみなりをユーモラスに描写したコミカルな曲で、化け猫を逆さにした「猫化け」という曲と双璧をなす。
また舞踊曲の「かみなり」(「お染の七役」より・・これは元来、常磐津の曲らしい)にはとぼけた詞章がついている。


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“西で鳴らそうか、東で鳴ろうか、思う坪さえ北山風に、雲のかけ橋スッテン、スッテン、
天ころり、おしゃりこしゃ、落ちて下界の面白や、ピカピカごろごろ、雷さん。
雷下駄はいて、絞りの浴衣で、来るものか、オッチョコチョイノチョイ、こわや、雷、角が、二本あって頭が獅子のようで、大きな牙剥いて、剣のような尖った爪で、大事な々々、私のおへそをとろとした、私もその時や、どうしよかと思った、泣くなよい子じゃ、こんなものやろうな、二度と出よまい夕立時に、ほんの事じゃと思わんせ。・・“

雷が空から落ちて医者の世話になり、治療代が払えない変わりに、人間に害を与えない約束をして、天上に戻ってゆく。


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では俗曲を一つ。新土佐節、
“かみなりさんは粋な方だよ、戸を閉めさせて、二人を取り持つ、蚊帳の中、ソウダソウダ、マッタクダヨ”

そういえば一頃「かみなり族」というのが流行った。いまでは「ドリフト族」と言うのがあって、急ブレーキをかけて方向転換などを競う技術集団とのことらしいが、いずれにしても雷から派生して危険なことだ。音曲のかみなりさんはとぼけて、ちょっと粋だが、現実の雷はやはり怖い物である。     

<弥乃太夫>

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日曜日, 8月 07, 2005

入谷と朝顔市、根岸の話

入谷の鬼子母神、真源寺の境内には、毎年七月六、七、八日に朝顔市が立つ。梅雨の盛りの市なので時々雨が零れる。朝顔は朝早く行かないと花がしぼんでしまう、午後から行ったのでは駄目だ。最近は浴衣姿の女性が目立つようになった。
昔から、鬼子母神と言えば、「おそれ入谷の鬼子母神、びっくり下谷の広徳寺」と言いならされているので、東京の下町では懐かしい場所である。
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そしてまた、入谷と来れば、
“雪のあしたの入谷の寮で、アッタトサ、可愛い直はんの膝にもたれて泣いたとさ、エッササのエッササのエッササのサ“の「お伊勢詣り」の俗曲替歌でおなじみ、直はんこと片岡直次郎と三千歳花魁との逢瀬の場でもある。三千歳花魁との濡れ場では、清元「忍逢春雪解」がはいる。
「待ってました」!”一日逢わねば千日の、想いにわたしや煩うて、鍼や薬のしるしさえ、泣きの涙に紙濡らし、枕に結ぶ夢さめて、いとど想いのます鏡・・・・・“
直次郎は、歌舞伎の舞台では蕎麦やの場で実際に蕎麦を食べる。
江戸歌舞伎ならではの粋な芝居である。私は幕切れ近く、丑松との別れが好きだ、
「長い別れになる二人、どこぞで一杯やりてえが、町と違って入谷じゃあ、食い物店は蕎麦や
ばっかり、天か玉子の抜きで飲むのも、しみったれた話だから、祝い伸ばしてこのままに、別れてゆくも降る雪より、互いにつもる身の悪事・・・」 河竹黙阿弥の傑作である。

その入谷の近くの根岸、そこには「化け地蔵尊」というのがある。大分以前には、根岸の花柳界に見番があって、そこでは義太夫の会が時々催された。私も出演したことがあったが、近くに住む義太夫が大好きなおばさんがその化け地蔵の由来を教えてくれた。asagao4

直次郎が三千歳のところへ通うとき、必ず地蔵の前を通る。地蔵が焼きもちを起こして、クルット背中を向けるので、いつとは知らず「化け地蔵」と呼ばれたと。

また近くには、樋口一葉の小説に出てくる、小野照さまがある、その境内には、七月一日の山開きに開山する、三階建て位の高さの富士山がある。頂上まで何合目と札が立っていて、今年も登ってきた。他にも「御行の松」や豆腐料理の「笹の雪」もまた有名である。

もうひとつ、根岸というと昔からよく言われる、「○○や、根岸の里の侘び住まい」 
これは便利なことに、○○になんでも季語をはめれば俳句が出来てしまうという。

では私も最後に一句。 

 梅雨空や 根岸の里の わび住まい

<弥乃太夫>

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