櫓太鼓
平成18年大相撲初場所は、ついに朝青龍の連覇ならず大関栃東が優勝した。
外国人力士が日本国技の相撲に入門、縦横無尽と暴れ回り日本人はどうしたと情けなく思っていたので、栃東の優勝で些か溜飲を下げた次第である。そして今場所。期待の栃東が早々に敗れ、白鵬が快進撃中。またも外国人力士活躍の場所になってしまった。
さて、義太夫で相撲の入るものと言う と文楽でも芝居でもよくでる「双蝶々曲輪日記」。そして「関取千両幟」がある。殆ど掛合いの曲で、私の若いときは、義太夫の会にこれがでると、私などは、「大坂屋」「呼び出し」に決まったものだった。何しろ早口で洒脱で、しかも無本でやるので中々難しい。これの歌舞伎芝居も又好いもので私は好きだ。鉄ヶ嶽が引っ込みに、「こりゃ稲川、魚心ありゃ水心、土俵で逢おう」と言うと、取的がすぐに、「ぬか袋ありゃ、かんぶくろ」と真似をする。これを子供の時はよく真似たものだ。
この曲はまた、「櫓太鼓」の曲弾きで有名である。曲弾きとは、三味線をアクロバット的に演奏することである。昔、先輩から「櫓太鼓」の曲弾きの手書き本を頂いた。それには懇切丁寧に図解入りで、何処でバチを放り上げるとか、右手はどうするとか、バチの握りかたとかが克明に記されている。この本を書いた人は、非常に研究心のある人のようである。今はあまり曲弾きはやらないが、いつだったか女流義太夫の人がTVでやっていたのを見たことがある。失礼ながら棹を立てる時でも、何だか怖々と、おっかなびっくりでやるので心配で見ていられなかった。
又、なんでも触太鼓は、お客の出と入りに打ち方を変えて打つと聞いたが、実際に太棹でそれに似せて演奏するのだから、相当訓練がいると思う。昔の豊沢猿平さんはすばらしかった。
後半では稲川の女房おとわが、夫の無事を神様、仏様、妙見様へ願掛けお願いしている。妙見様は芝居ではおなじみの仏様で、様々に登場してくる。 以前にもちょっと触れたが、中村仲蔵が定九郎の役者スタイルを変えたのも妙見様の帰り道だ。歌舞伎の黒御簾から“チャンチャンチャン~どうぞ叶えてくださんせ。妙見様へ願かけて”の下座音楽が流れてくるといつもわくわくする。この下座はいい、私は大好きだ。
力士に怪我はつきもの。神仏に願掛けせずにいられないほどだから、相撲取りの女房は大変だと思っていたら、
誰だか若い子が言っていた。大男の力士相手だから、部屋の切り盛りもやりがいがあるし、お相撲さんは可愛いしお嫁さんになりたーい、そうだ。さまざまなものだね。
最近の相撲でもう一つ気になることがある。それは、行司と、呼び出しが打つ柝の音の双方の息が詰まっていない気がすることだ。「方や誰々、方や誰々、この相撲一番にて」“チョン”「本日の、打ち止め」。この“チョン”の間(ま)が大事なのだ。 義太夫の口上も同じで、我々が語る前の口上も、発声訓練をして息の詰めを大事にしている。どちらも間の取り方が大事という点で、相撲と義太夫、案外近しいものかもしれない。
<弥乃太夫>
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